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福岡地方裁判所小倉支部 昭和63年(ヨ)386号 決定

申請人

長野光憲

申請人

引地忠文

申請人

木島四十六

右三名訴訟代理人弁護士

市川俊司

服部弘昭

石井将

谷川宮太郎

被申請人

豊津観光開発株式会社

右代表者代表取締役

武田良行

右訴訟代理人弁護士

三浦啓作

奥田邦夫

主文

一  申請人らが被申請人に対しそれぞれ雇用契約上の地位を有することを仮に定める。

二  被申請人は、昭和六三年一〇月七日以降本案第一審判決言渡しまで毎月一二日限り、申請人長野光憲に対し金二一万五七八四円、申請人引地忠文に対し金二〇万六九一八円、申請人木島四十六に対し金一九万〇八一四円の各金員を仮に支払え。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(当事者及び懲戒処分の存在)

次の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

一  被申請人は、「京都カントリー倶楽部」というゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)の経営等を営む株式会社である。

申請人らは、いずれも被申請人の従業員で、本件ゴルフ場の業務に従事していたものである。

二  申請人らは、本件ゴルフ場関係の従業員で組織された総評全国一般労働組合福岡地方本部北九州支部京都カントリー倶楽部分会(以下「分会」という。)に所属し、申請人長野光憲(以下「申請人長野」という。)は分会長、申請人引地忠文(以下「申請人引地」という。)及び同木島四十六(以下「同木島」という。)は副分会長の地位にある。

三  被申請人は、分会が昭和六三年八月二一日から同年九月二四日まで実施したストライキ(以下「本件ストライキ」という。)に関して、同年一〇月六日、申請人らに対し、同日付の「解雇通知書」をもって、同日付で懲戒解雇に処する旨の通告をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。

四  被申請人は、翌七日から申請人らとの雇用契約を否認しその就労を拒否している。

(本件懲戒処分事由の有無)

一  被申請人が主張する本件懲戒処分事由は、以下のとおりである。

1  申請人らは、昭和六三年八月二〇日から同年九月二四日までの間、申請人の再三の使用禁止通告にもかかわらず、本件ゴルフ場内コース管理棟を不法に占拠して寝泊まりし、更に右建物内に電話及び風呂場を不法設置した。

このことは、長期間にわたり被申請人の施設管理権をまったく排除し不法占拠を継続した行為であり、重大である。

2  申請人らは、同年八月二一日から同年九月二四日までの間、コース管理棟内機械収納庫、倉庫、車庫の出入口扉又は出入口前に車両を置く等の方法により、右建物からコース管理に必要な機械等の搬出を阻止する業務妨害行為をなし、また、同年八月二一日から同年九月一〇日までの間、コースへ通じる連絡口に車両を置き被申請人のコース管理業務を妨害した。

ゴルフ場にとって、芝の管理は最も重要な業務であり、これに要する機械、薬品、肥料等の搬出を妨害する行為は特に違法性が高いと言わねばならない。また、コース管理のため、機械等の搬出を妨害した上、通路まで塞ぐ必要もない。

3  申請人らは、同年八月二一日、本件ゴルフ場正門入口の鉄柵を被申請人側の制止を聞かず強引にこじ開け、不法に本件ゴルフ場内に侵入した。

この点だけでも違法性が高いのに、分会員らは部外者である支援者まで招き入れたことは重大な違法性がある。

4  申請人らは、同年八月二六日から同月三〇日までの間、本件ゴルフ場正門入口の鉄柵の扉前に宣伝カー二台を横に並べてピケットを張り、完全に交通止めにし、被申請人従業員及び客の通行を実力で阻止した。

このことは、被申請人がサービス産業に属する営業をしている以上、正常な運営を阻止するもので特別違法性が高いものである。

5  申請人らは、同年八月二八日、被申請人女子従業員らが本件ゴルフ場内クラブハウスに入場しようとしたところ、それを阻止すべく追いかけて畏怖させ、また、業務中の女子従業員に面接を強要し、被申請人の業務を妨害した。

6  申請人らは、同年九月三日、クラブハウス事務室前とスタート室前で宣伝カーのボリュームを最大にして団結歌その他を声高に流し、被申請人の業務を妨害した。

7  申請人らは、同年九月七日午前八時、本件ゴルフ場正門入口の鉄柵の扉前に宣伝カー二台を横に並べてピケットを張り、交通を完全に遮断し、被申請人がコース管理作業(草刈り)のため同日臨時に雇い入れた作業員三名の就労を実力で阻止して追い返し、被申請人の業務を威力で妨害した。

8  申請人らは、有給休暇の賃金カット二年分について、同六一年一一月九日、原恭輔元常務取締役(以下「原元常務」という。)から端数を除く二〇〇万円を受領していたにもかかわらず、被申請人側役員がその事実を知らないことを奇貨として、これを二重に詐取しようと企て、被申請人に対し二重に右有給休暇賃金カット分を請求し、もって、同六二年六月三日の団体交渉で同年六月末日までに支払う旨の確認をさせ、同月二八日及び同年七月一二日に被申請人から合計二四〇万五八九〇円を支払わせ、分会員に不正に受領させた。

このことは、金銭面での不正行為であり、しかも、事件発覚後これを隠蔽しようとしていることから、重大である。

9  分会員らは、同六三年八月二一日から同年九月二〇日までの間、二〇日にわたり、三〇名から二五〇名の赤いゼッケンを付けた多人数で、本件ゴルフ場クラブハウス玄関前に長時間滞留し、もって、プレー客に不快感、困惑感をかもし出し、サービス産業を営む被申請人に対して経営上の打撃を与えた。

以上1ないし8のとおり、申請人らは、自ら右違法行為を実行し、又は、分会の役員として総評全国一般労働組合福岡地方本部北九州支部書記長山岡直明(以下「山岡支部書記長」という。)と共謀して、右の各違法行為を企画、指導したもので、その幹部責任があるし、そのことは右違法行為が予期しない分会員や応援団によって行われた場合でも、それを黙認し又は利用してストライキの目的を達成しようとした以上同様であり、本件懲戒解雇はやむをえないものである。

仮に、右事由をもってしても、本件懲戒解雇が無効だとしても、これに右9の事実を付加すれば、被申請人には十分解雇権が発生するのであって、被申請人は、平成元年三月七日付準備書面で改めて申請人らに対し解雇の意志表示をし、右準備書面は申請人代理人弁護士に同月八日交付送達された。

二  これに対し、申請人らは以下のとおり反論する。

1  申請人らは、本件ストライキに際し、被申請人が主張するがごとき業務妨害行為等の違法行為をしたことはない。すなわち、被申請人が主張する右違法行為と称する事項は、次のとおり、事実無根である。

(一) 昭和六三年八月二〇日から同年九月二四日までの間、コース管理棟内食堂を労働組合活動に使用したが、この食堂は、被申請人の了承の下、日頃から分会の職場集会や役員会等で使用しており、右ストライキ期間中は労働組合の団結と活動を確保する最低限の場所として使用したものである。また、電話を設置したのは、被申請人側が一切の電話使用を拒否したことからやむなく設置したものであり、被申請人側もこの電話を利用して分会側に電話連絡してきたこともあった。更に、風呂場は、従前シャワー室があった場所に浴槽を持ち込んだだけで、右ストライキ終了後撤去した。夜間は、被申請人側が実力で右食堂からの退去を実行することを阻止するため、男性三、四人が泊まり込んでいた。

(二) 被申請人は、同年八月二〇日及び翌二一日、コース管理棟内の倉庫からグリーン刈り機、ラフ刈り機、草刈り機等コース管理業務に必要な機械等を搬出している。また、分会としても、ゴルフ場にとって芝は重要なものであるから、コースを荒廃させるような戦術は採らない方針で本件ストライキを実施していた。また、コース管理業務は、管理職数名と関連他社からの応援で必要な作業は実施されている。倉庫内に大型作業機械が残っていたが、これは分会員でないと動かせない機械であるため、被申請人が放置していたものである。コース管理棟からコースへ通じる被申請人主張の通路は被申請人の通路ではなく、豊津町の区所有の道路である。また、組合は右のような車両放置により通路を妨害した事実はない。仮に置いていたとしても他の作業路があることからコース管理業務には支障がない。更に、被申請人からの移動の申入れに対しては即刻移動に応じている。

(三) 同年八月二一日に、本件ゴルフ場正門前で支援者と抗議集会を開催する前に、「抗議文」を手渡すためにクラブハウスに行ったもので、すべて平穏に行われ、不法侵入をした事実はない。しかし、これは分会員及び支援者が団体交渉すら拒否する被申請人に対し抗議を行うため、クラブハウス内にいる社長に面会を求めるため、平穏に入場したもので、正当な労働組合活動の一貫であり、手段方法も右目的のに応じて相当の範囲内にとどまっており、現実にも、暴力等のトラブルも生じていない。

(四) 同年八月二六日は、宣伝カー二台を本件ゴルフ場正門入口近くに止めていたものの、完全に通行を遮断したのではなく、被申請人側も右正門に鍵をかけていた。同月二七日から同月三〇日までの間は、右正門前に宣伝カー二台を止めてはいたが、通行止めはしておらず、他の車も通行できた。宣伝カーを置いたのは正門前で抗議集会を開催するためのもので、通行止めにするためのものではない。組合は、通行しようとするプレー客等に対し平和的な説得活動を行っただけで、実力で入場を阻止していない。また、右二六日は四組のプレー客が、同月二七日は三組のプレー客が、同月二八日は四組のプレー客が入場してプレーし、同月二九日は定休日で、三〇日は被申請人側で休業している。

(五) 同年八月二八日は、非組合員に対し、キャディー組合員約五名が説得活動を行うため近寄って行ったところ、その非組合員が立ち去ったということがあったが、追いかけまわしたことはない。その時、被申請人側幹部との間で、いじめた、いじめないの悶着があったが、右幹部は結局発言の誤りを認めた。また、業務中に女子従業員に面接を強要したことはない。

(六) 同年九月三日は、正午ころから午後一時ころまで、ニュースカーで組合歌を流しただけである。当時、客はおらず、被申請人の業務に支障も与えていない。

(七) 同年九月七日午前八時二〇分ころ、被申請人が雇ったコース管理作業員三名が来たが、キャディー組合員が事情を説明したところ、右作業員らは自発的に帰って行った。また、当日は、通行を完全に遮断したことはなく、例えば、プロパンガス業者が本件ゴルフ場内に入場している。

(八) 申請人らは、同六一年一一月五日、被申請人との間で、有給休暇の賃金カット二年分を支払う旨の確認書を締結していたにもかかわらず、その後、被申請人代表者が右確認書を反故にして支払を拒否した。そこで、分会は、右事実を労働基準監督署に申告し、その是正勧告が同六二年二月に出て、被申請人が同年六月に右支払を実行したのであり、被申請人に対し二重に請求したことはない。

(九) 分会側は、交渉の申入れ等その時ごとに正当な理由があって被申請人側責任者に面会を求める等してきたにすぎない。実際にも、クラブハウス前で書面を手渡したり代表折衝などしており、不当滞留などした事実はない。

以上のことから、結局、本件は、被申請人が本来懲戒解雇の理由とならないストライキ自体に対し本件懲戒解雇(予備的解雇を含む。以下同じ)を実行したというにすぎないものである。

2  仮にそうでないとしても、右で述べた各事情から本件懲戒解雇は解雇権の濫用として無効である。

また、申請人らは、分会の役員ではあるが、分会自体総評全国一般労働組合北九州支部の下部組織にすぎず、本件ストライキを企画決定する権限もそれを実行する権限もなく、単なる職場の世話役的な地位しかない者にすぎない。本件ストライキは、全国一般労働組合が企画実行したもので、申請人らは分会内での活発な活動をしてきたものの、本件ストライキで他の分会員らと著しく異なった言動をしたわけでもなく、また右労働組合内では責任と権限を有する者でもないから、その責任を求めるのは相当ではない。

3  仮にそうでないとしても、被申請人の本件懲戒解雇は、結局のところ、被申請人が分会結成当時から終始分会を敵視し、団体交渉拒否や処分攻撃などの労働組合切り崩しを絶え間なく続けてきた経緯に鑑みると、本件懲戒解雇も、申請人らがいずれも分会の中心的活動家であることから、被申請人が正当な労働組合活動を否定し、ひいては分会の存在そのものを排除する意図に基づくものである。よって、本件懲戒解雇は、労働組合法七条一号及び同条三号に該当する不当労働行為であり、無効である。

三  そこで、申請人の本件懲戒処分事由の存否について判断する。

ところで、被申請人が主張するように、被申請人の行っている事業は、ゴルフ場経営というサービス産業で、ゴルフプレヤーに対して快く競技してもらうためのサービスを供給するという特殊な性格があるから、申請人らの本件ストライキ、正門前のピケット等により、単なる労務不提供等によってもたらされる不利益以上に、被申請人に不都合、支障があり、あるいは損害を受けたことは推測されるところではある。

しかしながら、ストライキは、それに付随して企業側に何らかの支障、損害を被らせることが通常であることに鑑みると、申請人らの本件ストライキが、右特殊性だけから直ちに業務妨害行為に類する重大な違法性を帯びるというわけではなく、結局は、個々の行為の性格、程度、態様等を総合考慮して、被申請人主張の懲戒事由が存在するのか否か、それが本件懲戒処分と均衡がとれているか否かを判断せざるをえない。

また、疏明によれば、分会は昭和六一年九月二一日に結成され、従来被申請人が有給休暇に対し賃金カットをしていた点の是正などを求めて団交等を繰り返していたが、被申請人側はそれすら満足な回答をしなかったこと、当事者双方は対立を深め、分会側のストライキや赤旗の掲揚等に対し、被申請人側は、団交拒否(赤旗掲揚をやめるなら団交に応じるなどの条件を出す場合を含む。)と懲戒処分の連発で対抗する状態が継続していること、本件ストライキ当時、分会側と被申請人との間では、未だ、昭和六二年度年未一時金、同六三年度夏季一時金、及び同年度賃上げの交渉も未解決の状態であったこと、以上の各事実が一応認められる。そこで、本件で申請人らの行為が懲戒事由に該当するか否かの右判断の際には、右のような申請人らの所属する分会と被申請人との間の過去の労使交渉の経緯などを踏まえて、いわば一連の経過の中で本件懲戒解雇の各事由を評価するという観点も必要となる。

1  コース管理棟占拠について

疏明によれば、申請人らを含めた分会員らは、昭和六三年八月二〇日、同六二年度年末一時金、同六三年度夏季一時金及び同年度賃上げの交渉において、被申請人側から誠意ある回答がないとして、同日から同年九月二四日までの間本件ストライキを実施し、コース管理棟内食堂を中心に、そこを拠点として活動していたこと、コース管理棟が組合活動の拠点として使用されるに至ったのは、同六一年一一月五日、分会及びその上部団体と当時の被申請人側の原元常務との間で確認書(〈疎明略〉)が締結され、その中に「組合活動のためコース管理事務所の使用を認める。但し組合は事前に会社に申し入れることとする。」との条項があったことから、以後、実際にも分会側から使用申入れ等をして使用してきたことがあるという契機に基づくこと、その後、被申請人が、右確認書は右原元常務が取締役を辞任していたにもかかわらず被申請人に無断で分会と締結したものにすぎないので無効であると主張し、再三にわたって、分会のコース管理棟使用に対し抗議していたこと、しかしながら、それまでのストライキの間(例えば、最近では昭和六二年五月一日から同月四日まで、同六三年一月一五日、同年五月三日、同月一五日)も、同様にコース管理棟を活動の拠点としていたこと、分会では、被申請人が本件ゴルフ場内の電話使用を一切拒否したため、同年八月二三日、右食堂に電話を架設したこと、被申請人側からの電話連絡が同所の電話でなされたこともあったこと、風呂場については、作業後の汚れを落とすため、従前よりコース管理棟内にシャワー室が設置されており、本件ストライキ中はそこに浴槽を持込んで風呂場としたが、本件後は撤去していること、本件ストライキ期間中の夜間、被申請人側の実力排除を警戒して、分会員が寝泊まりしていたこと、以上の各事実が一応認められる。

確かに、申請人らの所属する分会において、被申請人の施設であるコース管理棟を、被申請人側から再三使用禁止警告がなされていたのに、電話架設、浴槽の設置などまでしてその支配を排除し、本件ストライキの活動拠点として使用したことからすれば、分会のコース管理棟の使用は被申請人の施設管理権に対する侵害と言えなくもないところではあるが、他方で、曲がりなりにも前記確認書によって条件付ではあれコース管理棟の使用について合意がなされ(効力の点はしばらく措く。)、従前にも、被申請人側の黙示の了解が存したとも思える状況下で労働組合活動に使用されていた時期もあったこと、コース管理棟が本件ゴルフ場の中ではクラブハウスやコースから相当離れた場所にあり、被申請人の本件ゴルフ場の秩序維持に多大の支障を来したとは言えないこと、及び分会員がコース管理及びキャディー業務という労務の不提供を本件ストライキの中心的戦術にしていることから、コース管理棟自体はコース管理作業の上で実質的に機能を失っていた状況にあって、被申請人の施設管理権を侵害した故に実損害が生じた訳でもないことなどの状況も一応認められるのであって、これらのことからすると、それにより直ちに右コース管理棟の使用が正当化されるとは言いがたいものの、被申請人の施設管理権に対する不必要なまでの侵害行為があったとまでは言い切れないところである。したがって、かかる事由が直ちに本件懲戒解雇の事由にあたると言うことは疑問があり、被申請人の主張は未だこれを窺わせる疏明が不充分であると言うほかはない。

2  コース管理業務等の妨害

疏明によると、被申請人側では、本件ストライキに備えて、昭和六三年八月二一日、コース管理棟の倉庫から、グリーン刈り機、ラフ刈り機、草刈り機等、コース管理に必要な最少限度の機械等を持ち出し、申請人らはこれを妨害しなかったが、分会側は、同月二二日から、倉庫の入口等に車両を駐車させて機械等の搬出を妨害し、その後数回にわたり被申請人側管理職から搬出のために車両を移動させるよう要請があってもそれに従わなかったこと、被申請人側は、同年九月九日、倉庫等の前に駐車していた車両等の撤去を求める通告文を張り出し、右車両を排除するためにクレーン車を呼び実力で排除しようとしたが、分会員らが右クレーン車の入場を阻止したため実現されなかったこと、また、同年八月二一日から同年九月一〇日までの間、分会側は、コースに通じる連絡路に軽貨物自動車を駐車して通行の妨害をしていたが、この方は迂回通路があり直ちにコース管理機器の搬出に重大な障害となるようなものではなかったこと、なお、その後、同年九月一〇日、被申請人側から倉庫前の車両の排除とコースへの通路を塞ぐ自動車の排除を申し出たところ、後者の自動車については直ちに移動されたが、前者は無視されたことから、同月一二日、被申請人は機械搬出妨害禁止の仮処分申請をし、尋問期日が開かれたが、本件ストライキが解除になり妨害がやんだため、右申請を取り下げたこと、本件ストライキ中のコース管理については、被申請人は、応援の職員一〇名程を確保してコース管理に当て(また、被申請人側は、他に臨時作業員等を雇ってコース管理に従事させようとしたが、分会は、ストライキを無効にするような右行為を阻止するため、ピケットで入場を断念させたこともあった。)、また、同年八月二一日から同年九月二四日までの間(延べ三〇日、人員二二三人)、業者を入れてコースの芝刈りを実施し、刈り取った芝の回収を行わせたり、同年八月三〇日、薬品メーカーに芝消毒の散布方を依頼したりしていること、同年九月二〇日段階では、グリーン、ティグランド、フェアウエイ及びラフの状態はひどく荒廃が進んでいるというわけではなく、平常と同様のコース管理作業が支障なく実施されていたこと、及び同月二五日、本件ストライキが終了したことから、被申請人は機械を搬出することができたこと、以上の各事実が一応認められる。

申請人ら分会員が、コース管理棟内倉庫等の門前に車両を置いて、機械等の搬出を妨害していたことは明らかであるが、被申請人も本件ストライキに備えて、必要最少限度の機械等は既に搬出しているのであって、本件ストライキ期間中、暫定的ではあれ、その機械等により芝刈りを実施し、あるいは業者を使って刈り芝の回収や消毒などのコース管理を実施しており、その際の申請人ら分会員の妨害はなかったこと、その結果、本件ストライキ終了時点でコースが著しく荒廃していたとは認められない。更に、被申請人は、コース管理業務が本件ゴルフ場経営の根幹に位置するといった主張をしているが、これに従事する申請人らを構成員とする分会に対してあまりに拙い対応に終始し、ますます本件ストライキを長期化していったという側面もあることからも考慮すると、申請人ら分会員が機械等の搬出の妨害をしていた点は非難されるべきであるが、現実には、コース管理に対し重大な障害があったとは言いがたい。しかも、本件ストライキに至った経緯、その際の当事者の交渉の経過なども併せ考えると、右コース管理業務等の妨害は本件懲戒解雇の根拠として未だ妥当性を欠くといわざるをえない。

3  昭和六三年八月二一日の本件ゴルフ場への侵入

疏明によれば、分会員らは、同日午前一〇時ころ、支援団体員らと共に、本件ゴルフ場正門前で抗議集会を開催し、被申請人側の制止も聞かず、右正門から場内に入り、被申請人代表者に対し「抗議文」を手渡し、話合いの結果、当日は午前一一時ころまでには右正門前まで退去し、同所で集会をして解散したこと、正門入口は、被申請人側がガードマンを雇って、鉄柵を閉め、分会員らの侵入を排除しようと警備していたが、右正門を通らなくても脇道から徒歩でクラブハウス前に行けることから、右警備は、自動車等の侵入防止が主目的であったこと、及び分会側では、本件ストライキに入った当初より、被申請人側に対し、団体交渉の申入れをしており、何時でも話合いに応じる旨の申入れをしていたこと、以上の各事実が一応認められる。

ゴルフ場は、広い敷地を有し、その中に施設が点在していることから、分会員らの活動も、結局、被申請人側の幹部がいるクラブハウス中心になることは否めないところであり、被申請人側が団体交渉を拒否している状況にあっては、これを打開するために申請人らの方から働きかけが必要となってくるものの、右のような本件ゴルフ場の地理的条件に照らすと、被申請人側の態度に抗議し、あるいは、団体交渉の申入れ、その事務折衝、打合せ等のため、クラブハウス付近まで平穏な態様で入場することも、止むを得ない場合もあり得るものと認められ、それによって申請人らに使用される被申請人側の施設は、本件ゴルフ場正門からクラブハウスに至る道路とクラブハウス玄関前の広場であり、被申請人側に右施設の使用により直接的に損害が発生したという事情も窺われないところである。したがって、このような事由によって申請人らを懲戒解雇することは、程度を超えた疑いが強く、未だ被申請人の主張を認めるにたりる疏明はない。

4  クラブハウス前のピケット等

疏明によれば、分会員らは、本件ストライキを開始した昭和六三年八月二一日から、本件ゴルフ場へ通じる三叉路でピケットを張っていたが、同月二六日から同年九月二〇日ころまでの間、本件ゴルフ場正門入口の鉄柵前にピケットの位置を変え、その間の同年八月二六日から同月三〇日までの間は、右鉄柵前に宣伝カーを二台並べて置いて、正門の出入りの障害となるよう配置したこと、もっとも、同年八月二六日は四組、同月二七日は三組、同月二八日は四組の客が入場してセルフ営業がなされたこと、また、同月二七日はボイラー業者が入場しており、同月二九日は被申請人の定休日で、同月三〇日は被申請人側で非組合員を自宅待機にして、実質的に休業状態にしていたこと、それ以外の右期間中は、来客に対し、平和的説得活動を行い、実力で入場を阻止したことはなかったこと、及び同年九月一六日、福岡県の調査が実施された際、被申請人側副支配人は、同県事務吏員に対し、分会員が本件ゴルフ場会員と言い合いをして入場したことがあるが、プレーに来る会員や出入りの業者は支障なく通行していると思うとの報告をしていること、以上の各事実が一応認められる。

ピケットは平和的説得の範囲にとどまらなければ違法となることは言うまでもないが、ピケットを見ただけで入場を断念するプレー客があってもピケットは違法とはならないし、説得のため入場客に一旦立ち止まらせて説得を行うことも、即必ずしも実力による入場阻止にはつながらない場合があることは言うまでもない。本件のピケットの場合、宣伝カーを二台並べて置いたことは相当問題ではあるが、説得のための一方法として一時的に置いたのなら違法とはならない場合があり、また、現実に車両が侵入できずに無理矢理入場を断念させられたとする疏明もないことから、一応平和的説得ないし団結力の示威の限度にとどまるものと考えられ、被申請人の主張は未だこれを認めるに足りる疏明がない。

5  女子従業員らへの面接強要による業務妨害

疏明によれば、分会員のキャディー数名が、昭和六三年八月二八日午前七時三〇分ころ、非組合員の女子職員八名がクラブハウスに入って行こうとしているところに、説得活動をするため近寄って行ったところ、非組合員が逃げて行ったことから、これを見た被申請人側の掛田総務部長と分会員らとの間で、いじめた、いじめないの争いとなったことが、一応認められるが、業務中の女子従業員に違法な態様で面接を強要したと認めるに足りる疏明はない。そこで、右疏明事実だけでは、被申請人主張の解雇事由に相当するとは言いがたい。

6  昭和六三年九月三日の妨害行為

疏明によれば、分会員らは、同日午前一〇時五〇分ころ、分会員や支援者がクラブハウス前及びスタート室前に滞留し、午前一一時五五分ころから午後一時一七分ころまでの間、クラブハウス前及びスタート室前において、宣伝カーがボリュームを上げて組合歌等を流し、総勢で気勢を上げ、午後二時二五分ころ全員退去したことが一応認められるところ、被申請人側としては、正門を閉鎖してまで申請人側の車両を入場させまいとしていることからすれば、右宣伝カーの侵入及び宣伝カーがボリュームを上げて組合歌等を流し、総勢で気勢を上げたことは、被申請人にとって、業務妨害と受け止めるのも理由があるところではあるが、本件ストライキに至る経緯や、その妨害の内容も本件ストライキ期間中で約一時間二〇分程度の短時間で被申請人に回復しがたい損害を被らせたという訳でもないことから、かかる事由をもってして本件懲戒解雇の事由とするのは相当でない。

7  昭和六三年九月七日の臨時作業員に対する妨害

疏明によると、分会員らのうちキャディー分会員らは、同日午前八時ころ、被申請人側が雇ったコース管理のための臨時作業員三名に対し、ストライキ決行中であるなどの事情を説明したところ、同作業員が帰って行ったが、実力をもって入場阻止したといったことはなかったことが一応認められるところ、かかる事由をもってしては、本件懲戒解雇の事由に該当するとは言いがたい。

8  有給休暇の賃金カット分の二重受領

疏明によると、昭和六一年一一月五日、原元常務と分会及び上部団体との確認書において、有給休暇取得の場合は出勤扱いとして賃金等のカットはしない、有給休暇の賃金カット及び残業時間の差額は二年分遡及して支払う、支払は半額を同年一一月三〇日に、残りの半額は同年一二月三〇日に各支払うとの条項があること、原元常務は、同年一一月九日、当時の分会執行委員長片村に右カット分として二〇〇万円を交付したこと、右確認書は、同年一一月二〇日開催の団体交渉で、被申請人側から無効であるとの主張がなされたこと、被申請人から、同六二年六月二八日に一五二万二七三〇円、同年七月一二日に八八万三一六〇円、合計二四〇万五八九〇円が支給されていること、及び被申請人は、その後、原元常務の支払を知って、その問題を追求し出し、申請人らが同六三年八月一九日付で提出したストライキ通告書に反論して、二〇〇万円の返還を求めていること、以上の各事実が一応認められる。

ところで、右片村元分会執行委員長及び原元常務が被申請人側の事情聴取に対して返答しているところによれば、右金員は有給休暇の賃金カット分二一七万四〇〇〇円を二〇〇万円とし、その金額が交付され、内一二〇万円が分会員に配付されたが、そのことは当時の分会執行委員の申請人木島、同引地及び山岡支部書記長も知っていたとしている。しかしながら、右片村は、元分会長の地位にありながら、組合費の横領で分会を除籍され、現在は分会と対立した立場にあると窺われ、また、原元常務は、他方で組合側に対する話では個人的な金員を交付したにすぎないなどと言っていたりして、右返答自体の信用性に問題がある。更に、被申請人がその二〇〇万円の出所について長期間知らなかったというのも通常考えられないところでもあり、既に同六一年六月四日には原元常務の公金横領が被申請人側に発覚し、同年九月一八日には被申請人を辞職している同原が、何故その後になって金員を交付しなければならないかという疑問に立つと、その金員が被申請人の保管金か原元常務の個人的金員かの区別についても判然としないところでもある。また、右事情と申請人らとの関係、関わり方等について詳細に事実を確定ができるに足りる疏明がなく、その他に被申請人の主張を窺わせるに足りる疏明もない。そうであれば、被申請人の主張に副う疏明が十分でない以上、本件懲戒解雇の事由に該当するとは言いがたい。

9  クラブハウス前玄関前の滞留

疏明によると、分会員らは、昭和六三年八月二一日から同年九月二〇日までの間、二〇日にわたり、支援者と共に、多い時で二五〇名(同年九月一八日)、通常四、五〇名が、主に女子キャディー従業員を中心に赤いゼッケンを着用して、クラブハウス前に大体午前八時ころから正午前ころまで滞留していたことが一応認められる。確かに、被申請人が接客という業務に携わる以上、客が不快感を持つものとして、かかるゼッケンの着用とクラブハウス前での滞留が被申請人の業務に支障が生じること自体は明らかであろうが、分会員であるキャディーが、かかるゼッケン着用のまま直接プレー客に役務を提供した訳でもないし、それらの行為は、本件ストライキ期間中であることから分会員の団結を誇示するためのものであって、本件ストライキに至る経緯等から考えると、直ちに本件懲戒解雇の事由とするのは相当ではない。

四  以上のとおり、申請人ら分会員の本件ストライキ期間中の行為の態様、程度、性質等からして、申請人ら分会員の言動には相当問題がある部分もあるが、反面、被申請人側にもその対応に問題があり、だからこそ本件ストライキが長期化したとも言い得る。むしろ、分会としては、昭和六二年度年末一時金、同六三年度夏季一時金及び同年度賃上交渉についてまったく進展が認められず、その行動も過剰になりやすい傾向もあったところを、分会員は女子従業員が多数を占めていたことから、本件ストライキにおいても実力等を伴うまでには至らなかった側面もあり、被申請人が主張するがごとき過激な言動が度々伴っていたとは考えがたいところでもある。この本件ストライキ期間中の申請人らの行為を捉えて、その生活の基盤を消失させる懲戒解雇という処分に処するのは、前記のとおり、個々的な行為が本件懲戒解雇の根拠として未だ妥当性を欠くのは勿論のこと、前記の全部の行為を全体としてみても、本件ストライキに至る経緯、申請人らの各行為の態様、程度、性質等とこれに対する被申請人の対応を併せ考えると、余りに過重、厳重に過ぎると言うほかない。そうすれば、被申請人主張の各事由をもって、本件懲戒解雇を行うのは、解雇権の濫用として無効と判断せざるを得ない。

(被保全権利)

以上のとおり、その余の事実について判断するまでもなく、本件各懲戒解雇はいずれも無効であるから、申請人らは被申請人に対しそれぞれ雇用契約上の地位を有し、かかる地位に基づく賃金請求権を有するものと認められ、申請人らの右処分前の賃金は、疏明により、別紙賃金目録(略)のとおりであり、昭和六三年一〇月七日以降、各賃金が支払われていないことが一応認められる。

(保全の必要性)

疏明によれば、申請人らは、いずれも被申請人からの賃金を自己及びその家族の生活の糧としていることが一応認められる。したがって、申請人らは、いずれも、本案判決を待っていたのでは日々の生活にも窺することは明らかである。

したがって、本件各申請のうち、申請人らの雇用契約上の地位を仮に定め、かつ、昭和六三年一〇日七日から本案第一審判決言渡しまで、申請人長野につき金二一万五七八四円、申請人引地につき金二〇万六九一八円、申請人木島につき金一九万〇八一四円の本件懲戒解雇前の賃金相当額(ただし、昭和六三年五月分は減額があるので、平均賃金の基礎にしない。)の各仮払の範囲内において、保全の必要性があるものと認められる。

(結論)

以上の次第で、申請人らの各申請は、いずれも理由があるからこれを認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渕上勤 裁判官 有吉一郎 裁判官 川口泰司)

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